「十坪ジム」の特徴は、認知動作型トレーニングマシンが設置されていることである。認知動作型トレーニングマシンを用いた運動は、脳の働きと密接な関係があることが観察されている。認知動作型トレーニングを理解するうえで、脳と運動とのかかわりを、簡単に理解しておくとよい。

前頭葉と頭頂葉の分かれ目には、中心溝があり、側頭葉は外側溝で区切られている。大脳の側面図を「ひと筆書き」で核とすれば、ひらがなの「の」の字を裏返しにしたラインを描き、中心溝を書き入れれば、右図のような大脳の側面図を簡単に描くことができる。



運動野には、ピラミッド型の錐体細胞があり、この細胞から運動神経が筋肉に伝えられるので、その経路を「錐体路」と呼んでいる。





大脳基底核は、運動野(4野)をはじめとして、前頭葉に抑制的な信号を送る。抑制的な信号は、力の発揮が過剰にならないようにするために、調整役として非常に重要な役割を果たしている。

海馬は、運動の刺激を受けやすい部分であり、認知症などでは、最初に萎縮がみられる場所として注目されている。また、ストレスの影響によって萎縮がみられるという。軽い運動を実施することによって海馬の発達がみられることが、筑波大学征矢英昭教授たちによって確かめられている。

視床は、多くの情報を大脳皮質に伝達する。視床下部は、交感神経、副交感神経を支配する。また、内分泌機能全体を調整する。下垂体からは、下垂体前葉ホルモンなどが分泌される。

fNIRS(近赤外光脳内酸素化動態モニター装置)(島津製作所製)
を用いて、大脳の表面から深さ2cm付近の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの割合の変化をとらえる研究を実施した。

fNIRSのデータ。赤い色の部分は、酸素運搬が盛んな部分、青色の部分は酸素吸収が盛んな部分、緑色は中間的な部分。様々な運動様式での脳内活動の様子をとらえてみると、スプリントトレーニングマシンを行った時の脳内活動の様子が最も変化に富んでいた。スプリントトレーニングマシンに習熟した人の場合でも、脳内活動が最も顕著であった。このことから、様々な運動動作の種類や内容が、脳内の代謝活動にそれぞれ異なる反応を示すことが明らかになった。(2005 小林資料)

脳内の活動状態は、運動中に刻々と変化する。NIRSを用いて観察すると、酸素と結合したヘモグロビンの割合が多いところほど、赤色が濃くなる。左の図では、左上が時間経過に伴う変化、左下が50チャンネルの総合した変化のうち、最も変化が大きかった時点(瞬間)を示している。右側の上段は第1チャンネルの様子を示している。チャンネルごとにその計測部位の変化が表示される。
脳内変化の様子は、個人差が大きい。スプリントトレーニングマシンは、初めての人では操作技術が難しいので脳がつかれるほど働くといわれる。
慣れない動作をするときに脳が良く働くといわれる。しかし、このデータの被験者となった人は、スプリントトレーニングマシンを10年以上利用している人で、動作に不慣れによる脳の緊張といった要素はない。むしろ、スプリントトレーニングマシンの運動そのものが、脳の広い範囲にわたって活動の刺激となっているということができる。

一般的に利用されている自転車エルゴメータの運動中脳内変化は、比較的小さい。