高齢者(80~90歳代)の人の歩行姿勢向上の体操指導
小林寛道 (講演形式の解説)
80歳代後半から90歳代の人で、姿勢が丸くなり、歩く姿勢も前かがみになっている人が多くいます。これは、腹筋や背筋が弱くなり、頭が重いので前かがみになると説明されてきています。
このため、腹筋や背筋運動をすることが勧められますが、それだけではなかなか改善されません。
私は、健身塾オダサガで90歳の男性、健身塾藤沢本町で89歳の男性を直接指導していますが、いずれの場合も姿勢の改善や歩行能力の向上がみられたので、どのような指導を行っているか紹介します。
1.腕・肩回しの体操
背中と腰が丸くなって前かがみの姿勢になっており、立ち上がるときや直立姿勢をとるときに、どこかにつかまらなければよろよろするような状態です(初期状態)。
立位姿勢を取り、不安になればすぐにつかまることができる手すりや、安定したものの横で体操を行います。
体操は、①両肩回し(はじめは、体の前側で、背中を丸めたままでよい)。
![小林肩体操1](https://i.grupo.jp/dynamic/69/f9/6ae4f7bb5f1417cbec88f4986a2346e0b10b69f9_7143312.jpg)
![小林肩体操2](https://i.grupo.jp/dynamic/15/2c/d507b13d0fa678b1818f286d38e625d1c874152c_7143313.jpg)
![小林肩体操3](https://i.grupo.jp/dynamic/13/12/562add322d2c7b61cc66e5d73ad17d5ea5441312_7143314.jpg)
![小林肩体操4](https://i.grupo.jp/dynamic/9c/17/421f0375102da2c7fd85e5c46ed6f24a4b6f9c17_7143315.jpg)
![小林肩体操6](https://i.grupo.jp/dynamic/3c/ea/695b2ae304bc4ba25d716d96e1e2b1094c4f3cea_7143316.jpg)
![小林肩体操7](https://i.grupo.jp/dynamic/4a/be/579ae52ddc427be8cb4e583fcd88c457d6cf4abe_7143317.jpg)
![小林肩体操8](https://i.grupo.jp/dynamic/c0/ff/921278eeddd0788d2ec31f7e4570fff97ef7c0ff_7143318.jpg)
②腰伸ばし(前かがみの姿勢から少しだけ伸びればよい)。
③腰回し(骨盤を回すのが目的であるが、上体回し、のような動作でも良い)。これらの初期の体操は、少しずつ姿勢を高い状態にして行うようして、本来の①胸を張った両肩回し、②腰をそらすような方向での腰伸ばし、③腰部だけの腰回し、などの動作ができるようにする。
![腰回し小林1](https://i.grupo.jp/dynamic/df/11/f4ddfc58d8fba27b3766845c5670ee6f0ef6df11_7143319.jpg)
![腰回し小林2](https://i.grupo.jp/dynamic/e6/94/c9fc96c798fb9e6b6b566d26d93aaec35bd4e694_7143320.jpg)
![腰回し小林3](https://i.grupo.jp/dynamic/47/db/160ea3c2ec649ec71ae819a53b09bdbeaa1947db_7143321.jpg)
2.一歩踏み出し動作の練習
片足を一歩(または半歩)前に踏み出し、前足の上に体重を乗せるようにする。体重の移動は腰を足の上の乗せるように動作することが理想であるが、すぐには、腰を足の上に乗せるという動作ができないので、体を起こしながら前足に体重を移すという動作から練習する。
歩行が不安定な原因は、基本的に片足で自分の体重を支えることができず、両足でいつも体重を支えて、片足から片足への完全な体重移動ができないためである。これは、片足で体重を支えるバランス能力が低下しているためで、バランスをとる体の使い方を身に着ければ安定した歩行動作が得られるという考え方に基づいた指導法である。
![立位小林1](https://i.grupo.jp/dynamic/b0/2d/44e25b9ad339ef8bb8c9a05e4ebbf3ff2898b02d_7143305.jpg)
![立位前出し小林2](https://i.grupo.jp/dynamic/2e/98/053a1606fef2d01c6448a717718c2cc62f522e98_7143306.jpg)
![立位腰乗せ小林3](https://i.grupo.jp/dynamic/29/22/a93a2f8d02bfbad332fe10ac6caf1d8a064e2922_7143307.jpg)
![立位足揃え小林4](https://i.grupo.jp/dynamic/f9/2d/15b78dcc9b64924758ec13c0320502135389f92d_7143308.jpg)
![立位逆足前小林5](https://i.grupo.jp/dynamic/ec/d1/1f51ee4eb1d8a342a5c9edc7884c692088daecd1_7143309.jpg)
![立位逆足腰乗せ小林6](https://i.grupo.jp/dynamic/15/1e/7bd318f5483959a62f654bae68fe72c53760151e_7143310.jpg)
3.一歩踏み出し姿勢から両足そろえの姿勢に
一歩踏み出した足の上に体重(腰)を移動させたのち、後ろ足を引き付けて両足をそろえた姿勢をとる。この両足をそろえた姿勢をとったときに、できるだけ腰を伸ばしてよい姿勢をとるように努力する。時間をかけたゆっくりしたタイミングで腰や背中を伸ばし、ふらつく場合には手すりにつかまってもよい。
4.反対足の踏み出し
両足そろえの姿勢から、反対足を前に出し、体重移動を行う。体重移動を行う場合には、前足となった足の上に同じ側の腰を乗せるという感じでゆっくりと体を伸ばしながら動作する。この場合、腰と肩を同時に移動させてもよい。大切なことは、足の上に体重を移動できることである。
この体重移動ができるようになれば、片足バランスが取れるということに通じる。
5.再び両足そろえの姿勢をとる
前足への体重移動(正確には腰を移動させる動作)ができたところで、両足そろえの姿勢に移る。この時、できるだけ高い腰の位置を保ちながら移動することができるように指導する。
第2段階の歩行姿勢向上の体操
1.直立腰伸ばしの体操
両手の手のひらを開いて手首を背屈させ、机の上に両手をついて立ち上がるような腕の形を作る。立位姿勢を取り、両手で地面を押すような動作をしながら腰を伸ばし、胸を張る。この両手指を開いて、手首を背屈させながら手のひら(手掌)の付け根を下げながら肘を伸ばすと、両足の膝と腰を比較的スムーズの伸ばすことができる。
2.一歩踏み出しての膝腰伸ばし動作
一歩踏み出して、足の上に腰を移動して体重をのせる。この時、両手の手首を背屈させて両手で地面を押すように動作すると、前足の膝や腰が自然のうちにしっかりと伸ばすことができる。
私は、この姿勢を「志村けんのひげダンス」の姿勢と表現している。この「ひげダンス」のポーズをとると、驚くほど腰が伸び、膝を伸ばすことができる。おそらく、「動作の反射作用」が潜在的に働いているのだと考えられる。
実際の志村けんと加藤茶の「ひげダンス」の映像を見ると、膝は曲げられているが、両手を地面を押した動作をする時、骨盤はしっかり後傾しており、健身塾でいう「馬の姿勢」となっている。
この骨盤の後傾姿勢と手首を背屈させて地面を押すポーズによって、下半身がしっかりと伸ばされやすい。こうした要素は、独特のリズムに合わせた「志村けんのひげダンス」とは異なるが、「ひげダンス」の腕と手首の動作は、歩行姿勢の膝腰を伸ばす運動として、きわめて重要な要素を持っている。
3.両足そろえを省略した膝腰伸ばしの歩行動作
一歩踏み出した前足に体重をのせ、両手で両腰の横で地面を押すような動作に合わせて、膝腰を伸ばした姿勢から、後ろ足を前に運び、両足そろえの動作をせずに、そのまま前方に一歩踏み出す。そして、前足への体重移動を行い、両手で地面を押すように動作して膝腰を伸ばし、前足で全体重を支えることができるように姿勢バランスを調整する。この動作を、一歩、一歩繰り返すことによって、良い姿勢の歩行が獲得できる。
4.改善された歩行姿勢
改善された歩行姿勢では、歩行の方向にふらつきがなくなり、手で何かにつかまる必要もなく、安定して歩くことができるようになる。歩幅が広くなり、以前の歩く姿からは見違えるようになり、周りの人や家族の人たちにも驚かれている。