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文部科学省「幼児期運動指針」を読みなおす

文科省「幼児期運動指針」の概要 表紙
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幼児期運動指針では、子どもの運動が脳の発達に重要な意味を持っていることを述べているが、そのことには「認知的能力の発達」という表現を使っている。
脳の働きに関しては、「知能」「知性」が関係する。英語のintelligenceは、「知性」「知能」と邦訳されている。ハーバード大学のハワード・ガードナーは、知性(知能)を8つの要素に分け、多重知性理論を提唱している。

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多重知性理論では、6番目に身体運動的知性があげられている。

幼児期運動指針が策定される議論の中で、幼児にとって「遊び」が大切であり「運動」というよりも「運動遊び」という概念が大切だ、という根強い意見もあった。しかし、「運動遊びの指針」とせずに「運動指針」としたことには、子どもにとって身体を動かす「運動」の重要性を前面に出したい意図があったからである。(幼児期運動指針策定委員会委員長小林寛道)

こどもの成長発達の過程において「活発に身体を動かすこと」(運動)が必要なことは、ギリシア・ローマ時代の哲学者の考えの中にも述べられている。
 著名な教育思想の中で「遊び」「運動」の大切さについて触れられている部分を抜粋してみる。
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幼児期運動指針から、生活習慣のリズムを考える
                     小林寛道(東京大学名誉教授)
1.幼児期運動指針の背景
文部科学省では、2012年3月に、「幼児期運動指針」を発表し、「幼児期運動指針ガイドブック」および「幼児期運動指針普及用パンフレット」が全国のすべての幼稚園(国公私立)および保育所に配布されました。
「幼児期運動指針」がつくられた背景には、子ども(青少年を含む)の体力低下問題があります。小学校に入学した子どもが、かつては幼稚園児や保育園児ができた運動内容ができないなど、学習指導要領にある運動課題の達成にも問題が生じている現状があります。
体力・運動能力の低下要因については、生活の利便化、食生活の変化などの生活的要因とともに、都市化による環境変化、受験など、子どもを取り巻く様々な社会的要因の観点から多くの指摘がなされてきました。文部科学省では、青少年の体力低下をもたらしている各種の要因について、全国的な規模で調査研究をおこない、その要因を究明するとともに、「体力向上プログラム」事業を実施し、その効果をとらえてきました。

それらの調査研究の結果から、「体力・運動能力」の発達は、日常的な生活習慣と密接な関係を持っており、少しだけの働きかけでも子どもたちの体力や運動能力、生活態度に大きな影響を持つことが明らかになりました。
また、「意欲」「集中力」「積極性」「自己統制力」「社会性」といった、心や脳の働きに関連する「認知的機能」の働きも、子どもたちの体力・運動能力と密接に関係していることが明らかになりました。

 文部科学省では、「学力テスト」の実施に合わせて、新体力テストと質問紙調査(生活習慣、食習慣、運動習慣など)を小学5年生、中学2年生の全国児童生徒全員を対象とする悉皆調査を行いました(全国体力・運動能力、運動習慣等調査)。 2008~2009年度の調査では、調査学校数約23000校、調査児童生徒数約155万人が対象になりました。この調査結果から、「体力」と「学力」には正比例的関係があることが明らかにされ、教育関係者に大きなインパクトを与える結果となりました。

体力・運動能力には、運動・スポーツ実施状況および実施時間が大きく影響していますが、特に「運動・スポーツを実施しない群」が増加し、また、運動やスポーツをする時間の少ない子どもたちの体力低下が目立っています。
こうした状況から、子どもの体力低下に歯止めをかけ、子どもの体力を向上させるためは、単に、学校や幼稚園、保育園の体育・運動の時間に運動をさせればよい、といった考え方ではなく、乳・幼児期からの子どもを取り巻く環境の改善や、からだを動かして遊んだり、運動したりすることの必要性と重要性への理解を深め、生活全般にわたって、行政、幼稚園、保育園、学校、家庭、地域社会が取り組むべき課題であるいうことができます。

2.「遊び」「運動」の大切さ
幼児にとって体を動かして遊ぶ機会の減少は、児童期、青年期での運動やスポーツに親しむ資質や能力の育成を阻害することになるばかりでなく、意欲や気力の減弱、対人関係などのコミュニケーションをうまく構築できないなど、子どもの心の発達にも重大な影響を及ぼすことにもなりかねないと考えられています。
幼児期において、遊びを中心とする身体活動を十分に行うことは、多様な動きを身につけ、心肺機能や骨形成にも寄与するなどとともに、生涯にわたって、健康を維持し、何事にも積極的に取り組む意欲を育むなど、豊かな人生を送るための基礎づくりとなる大切なものです。
幼児期は、生涯にわたる運動全般の基本的な動きを身につけやすい時期です。身体を動かす遊びを通して動きが多様に獲得されると共に、動きを繰り返し実施することによって動きの洗練化も図られていきます。また、意欲を持って積極的に周囲の環境にかかわることで、心と体が相互に密接に関連しあいながら、社会性の発達や認知的な発達が促され、総合的に発達していく時期です。

そのため、幼児期の運動については、適切に構成された環境の下で、幼児が自発的に取り組む様々な遊びを中心に、体を動かすことが大切です。
「遊び」としての運動は、大人が一方的に幼児にさせるのではなく、幼児が自分たちの興味や関心に基づいて進んで行うことが大切であるため、幼児が自分たちで考え、工夫し、挑戦できるような指導が求められます。幼児にとって、体を動かすことは遊びが中心になりますが、散歩や手伝いなど、生活の中での様々な動きを含めてとらえておくことが大切です。

3.運動指針の骨子
これらを総合的に考えると、幼稚園、保育所などに限らず、家庭や地域での活動を含めた一日の生活全体の身体活動を合わせて、幼児が様々な遊びを中心に、「毎日、合計60分以上、楽しく体を動かす」ことが望ましいことになります。

指針の骨子1.「毎日、合計60分以上、楽しく体を動かす」
その推進に当たっては、次の3点が重要です。
指針の骨子2.「多様な動きが経験できるように様々な遊びを取り入れること」
指針の骨子3「楽しく体を動かす時間を確保すること」
指針の骨子4「発達の特性に応じた遊びを提供すること」

 幼児期は、運動機能が急速に発達し、体の基本的な動きを身につけやすい時期であることから、多様な運動刺激を与えて、脳をはじめ、体内の様々な神経回路を発達させて行くことが必要です。それらの神経回路が発達することによって、普段の生活で必要な動きをはじめ、とっさの時に身を守る動きや、将来的にスポーツに結びつく動きなど、多様な動きを身につけやすくすることができます。そのためには、幼児が自発的に様々な遊びを体験し、幅広い動きを獲得できるようにすることが必要です。

楽しく体を動かす時間の確保について
 多様な動きの獲得のためには、量(時間)的な保障も大切です。一般的に幼児は、興味を持った遊びに熱中して取り組みますが、他の遊びにも興味を持ち、遊びを次々に変えていく場合も多くあります。そのため、ある程度の時間を確保すると、その中で様々な遊びを行うので、結果として多様な動きを経験し、それらを獲得することになります。
文部科学省の調査では、外遊びの時間が多い幼児ほど体力が高い傾向にありますが、4割を超える幼児で、外遊びをする時間が一日1時間(60分)未満であることから、多くの幼児が体を動かす実現可能な時間として「毎日合計60分以上」が目安として示されました。

幼児期の運動は、「動きの多様性」と「動きの洗練化」が特徴とされます。
動きの種類は「体のバランスをとる動き」「体を移動する動き」「用具などを操作する動き」の3つの基本的な内容に分けてとらえることができます。
①「体のバランスをとる動き」(バランス系)には、立つ、座る、寝ころぶ、起きる、回る、転がる、渡る、ぶら下がる、などが含まれます。
②「体を移動する動き」(移動系)には、歩く、走る、はねる、跳ぶ、登る、下りる、這う、よける、すべる、などが含まれます。
③「用具などを操作する動き」(操作系)には、持つ、運ぶ、投げる、捕える、転がす、蹴る、積む、こぐ、揺する、押す、引く、などが含まれます。

「動きの洗練化」とは、年齢とともに基本的な動きや運動の仕方、(動作様式)がうまくなっていくことを意味します。幼児期の初期(3歳から4歳頃)では、動きに「力み」や「ぎこちなさ」がみられますが、適切な運動経験を積むことによって、年齢とともに無駄な動きや過剰な動きが減少して動きが滑らかになり、目的にあった合理的な動きができるようになります。

生活習慣の中で、「食事」「入浴」「睡眠」「排泄」といった生活リズムの中に、「遊び」や「運動」を積極的に取り入れることができるようにしていくことが望まれます。