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第14回 60~90歳の最大酸素摂取量の測定

14回 私の世田谷 自伝的健康とスポーツの科学 2011年5月号
              小林寛道 東京大学名誉教授・日本大学特任教授)
中高齢者を対象とした最大酸素摂取量の測定は、参加希望者が徐々に増えて、さまざまな年齢層の人が、こうした体力科学的な測定に興味を持っていることがわかった。名古屋クレージーランニングクラブといった勇ましい名前のランニングクラブから、会員の最大酸素摂取量を定期的に測定してほしいという依頼も来た。会長は熊谷幸夫さん(68歳)、特に熱心であったのが下(しも) 宏さん(64歳)であった。マネージャーとして28歳の林敏彦さんと32歳の大島邦夫さんが居た。クレージーランニングクラブの人は、60歳代の人が非常に熱心で、毎日10km程度のランニングを実施している人が多かった。私は、1回きりの測定ではなく、これから毎年測定を継続的に実施するという条件で引き受けることにした。
このクラブのメンバーは、非常にレベルが高く、72歳でギリシャマラソン(42.195km)を完走した石川00さん、60歳代で非常に強い実力を持っていた中島健蔵さん、県立高校の先生だった吉野さんは、走って日本全土のランニング紀行をつづることに喜びを感じていた。
下(しも)さんの紹介で、89歳でホノルルマラソンを完走した財津和夫さんも測定に参加され、89歳と90歳の時に測定した(写真)。
このような測定を繰り返していくうちに、私自身の高齢者に対するイメージがすっかり変化してしまった。60歳代でも若い人とそれほど変わらないか、それ以上の持久力を発揮することができるし、70歳代、80歳代でも強い人は非常に強い体力を持ち続けることができるということを目の当たりに実感した。そして高齢者といっても90歳ぐらいまでは、かなりな体力を保持して生きていくことができるという自信にも似た確信を得ることができた。
また、最大酸素摂取量の値は持久力の指標とはなるが、値が高ければ良いというわけでもなく、低い値の人であっても、時間をかけてゆっくり動作を継続していけば、年齢にかかわらずかなりな運動をこなしていくことができることがわかった。89歳時の財津さんの最大酸素摂取量は体重1kgあたりで23mlと低い値であり、90歳時では21mlであった。これはあまりに低い値である感じて、その後80歳代のマラソンランナーを10名以上測定したが、いずれも25~30mlという値であった。男子成人の平均値が体重1kgあたり40~45ml、女子成人の値が30~35mlである。自立して運動できる最低ラインは12~13mlと考え、これを「独立行動可能レベル」、「活動的生活の境界レベル」は20mlとして論文に投稿した。
高齢者では、最大酸素摂取量の値が低くてもマラソンを走るほどの潜在能力が或るということになる。ただし、値が低い人はゆっくりと走ればよい。財津さんのマラソンの完走時間は8時間35分であった。