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[認知動作型トレーニング」のエッセンス

認知動作型トレーニングの成り立ち

認知動作型トレーニングは、「マシントレーニング」「大腰筋体操」「コアストレッチウォーキング」の3つの内容から成り立っている。いずれも、体幹深部筋(ボディ・インナーマッスル)を有効活用させた動作を学習し、それらを日常生活やスポーツ活動に生かすことが目指されている。
特に、「認知動作型トレーニングマシン」を用いた運動は、介護予防を目的にした高齢者をはじめ、一般成人、スポーツ能力を高める目的の子どもやスポーツ選手、および病後のリハビリ、知的障害者、認知症やうつ症状の人、などを対象に実施することが出来、すでにそれぞれに実証的なデータが積み重ねられてきている。

 認知動作型トレーニングでは、従来の筋力トレーニングの方法とは著しく異なり、次の特徴を持っている。
①「力まずに動作する」
②「比較的ゆっくりとした動作で行う」
③「体軸の形成や動作姿勢そのものを学習する」
④「筋肉痛が起きにくい」

また、負荷装置として錘(重り)を用いていない。負荷装置には、特殊な工夫がされた電磁ブレーキや電子式抵抗装置、バンドブレーキ装置、油圧などを用いている。また、トレーニングの目的に合う動作を行うために、補助的な動力装置が用いられている。

認知動作型トレーニングマシンの種類

認知動作型トレーニングマシンは、目的や用途に合わせて20種類が開発されているがその主なものは、次のとおりである。

(1) スプリントトレーニングマシン
左右1対のペダルが、互いに逆方向に歩幅に相当する距離だけ、自動的に往復移動を繰り返す装置である。トレーニングする人は、左右のペダル上に乗り、立位動作を保つ。自動的に前後に移動するペダル上で「すり足動作」を行う。バランスの良い「すり足動作」を行うために、常に膝の上に腰が位置する「膝腰同側動作」を練習する。

「すり足動作」ができたら、ペダルを回転させる。ペダルアームの長さは21cm(または17.5cm)あるので、支持脚での片足バランスを保って、遊脚側の膝と腰を高く引き上げてペダル回転させる。支持脚を乗せたペダルは移動しているので、タイミング良く動作しなければ、ペダルをスムーズに回転させることができない。ペダルの回転には、大腰筋をはじめとする骨盤内部の筋群の協調的な動きが必要である。スプリントマシンの歩幅と速度、およびペダル回転にかかる負荷は調節可能。歩行やランニング動作の改善効果が著しい。

認知動作型トレーニングマシンの中で、最も動作の習得に時間がかかるのが「スプリントトレーニングマシン」であるが、利用者は、動作そのものに大きな興味と挑戦意欲をもつことが共通している。また、動作そのものに飽きることがない。

fNIRSを用いた脳内の変化は、「スプリントトレーニングマシン」を用いた場合に最も顕著で、活動の様子は広範囲であった。これは、バランス、タイミング、運動イメージ、感覚、姿勢にかかわる反射など、運動にかかわる多くの要素が脳の活動を活発化させるためであると考えられる。

また、スプリントトレーニングマシンを中心とした3ヶ月間のトレーニングによって、高齢者の大腰筋横断面積は、平均10%の増大がみられた。大腰筋の横断面積に関するトレーニング効果については、静岡県総合健康センター、東大柏キャンパス、伊東市でのフィールド研究からも確認されており、スプリントトレーニングマシンによる動作は、体幹深部筋を強化する効果を持つといえる。
スプリントトレーニングマシン(中高年のトレーニング)Sprint Training Machine (for Middle-Old Aged People)

(2) 車軸移動式パワーバイク

ぺダルの回転軌道が楕円描く自転車を立ち漕ぎ姿勢で動作する。
ペダルの楕円軌道は、ペダルアームの回転軸の部分が、ペダルの回転角度に合わせて30cmの範囲で水平移動することから得られる。ペダルには、踏み込み範囲にのみ負荷がかかり、後方から前方への移動部分には負荷がかからない。
左右のペダルは独立して動く構造になっている。このことによって、体重以上に大きな抵抗負荷をかけても、ペダルを回転させることが可能となっている。ハンドルは、自由回転式になっており、ペダルの踏み込み動作に合わせて、踏み込み脚側に回転させる。
通常の自転車では、ペダルは円軌道を描いて回転するが、この場合の主動筋は大腿四頭筋である。楕円軌道を描くぺダリング動作では、腰の動きが必要であり、必然的に骨盤内部の筋群の働きが加わる。楕円軌道のぺダリングで体重を有効利用するために、右体軸および左体軸を形成する姿勢を習得する。
右体軸姿勢とは、右側の「足・膝・腰・上腕腋下」が垂直線上に直線になる姿勢を指す。この場合、ハンドルを握った右手も、右腰の近くに引き寄せられる。

車軸移動式パワーバイクの動作で最も難しいのは、ペダルを踏み込んだ側にハンドルを回転させる動作である。
通常の歩行動作では、右足が前に出されると左手が前に振られ、左足が前に出されると右手が前に振られる「斜体側交差型」の神経支配によっている。しかし、車軸移動式パワーバイクのペダル踏み込み動作では、「手足同側型」の神経支配が必要である。
これは「ナンバ型」の神経支配であるが、体幹深部筋を有効活用するためには、脚と体幹部を「同側的」に動かす「同側動作型」の神経支配を用いることが有効である。車軸移動式パワーバイクは、「同側動作型」の神経支配を学習する最も良いマシンである。
ペダルにかかる負荷を大きくした場合、「斜体側交差型」の神経支配では、脚力のみに頼る動作となるが、ペダルの負荷が重く、脚力だけではペダルの回転が不可能な場合でも、「同側動作型」の神経支配を用いた動作では、ペダルの回転が容易である。
「同側動作型」の動作では、体重とともに体幹深部筋を有効活用できるためである。ペダルを踏み込む時に、ハンドルを踏み込み足側に鋭く「引き動作」で回転させる技術は、柔道の襟首をつかんで手前に引きこむ動作を共通している。
車軸移動式パワーバイク movable axle bike

通常のトレーニング用固定自転車(自転車エルゴメータ:エアロバイク)では、ハンドルが固定しているため、こうした神経支配にかかわる力の発揮様式を学習することはできない。
自転車エルゴメーターは、もともと運動量を正確に測定する目的で開発されており、個人の運動技量が反映されることなく、仕事量や運動に費やされたエネルギー消費カロリーが共通的尺度でとらえられることが利点とされている。
そのため、自転車エルゴメータは、研究用として広く利用され、トレーニングに用いる場合には、消費エネルギーを目安とすることができる点で便利である。
トレーニングの効果は、呼吸循環系の持久力の向上や、脚の筋力の養成に見られる。しかし、運動技術の向上といったこととは無関係である。また、fNIRSを用いた脳内の変化は少なかった。
エアロバイクを用いて運動している人の中には、退屈な気持ちを持つ人が多く、退屈さを紛らわせるために液晶画面を設置しているトレーニングジムもある。運動中の脳内変化が少ない運動の場合には、人は退屈さを感じるようである。


(3) アニマルウォークマシン

アニマルウォークマシンは、四足動物の歩行動作に関連する動きをすることから名づけられている。
陸上競技のクラウチングスタート姿勢から、どうしたら鋭いダッシュが生み出されるか、という発想が原点になっている。
胴体部を前傾した姿勢で、下肢と上肢を連携させた動きを生みだすためには、四足動物の神経支配を生かすことが考えられる。
下肢の動きは、車軸移動式パワーバイクと同様に、楕円軌道を描くペダル回転動作をとりいれた。
上肢の運動は小型の腕エルゴメータの動きをとりいれ、腕エルゴメータを角度変化が可能な支柱に取り付けることによって、当初の目的を満たすことができた。
腕エルゴメータのハンドルを回転させる時は、肘を伸ばして肩甲骨の動きで動作することによって、スポーツに必要な骨盤と肩甲骨の連携動作が可能になる。
脊柱は蛇の蛇行運動のように動いて、骨盤・肩甲骨の連携動作をよりスムーズに生じさせることができる。
腕エルゴメータをとりつけた支柱の角度を垂直からできるだけ地面に近付けた角度に変化させることによって、運動の負荷は著しく大きくなる。この場合、体重を肩甲骨の部分で支えるように動作することによって、上体に体重がかかる割合が大きくなってもスムーズな動作の遂行が可能である(写真4)。
四足動物のような「上下肢連携動作」の神経支配は、現代人では不得意なものになっており、アニマルウォークマシンの動作をはじめからスムーズにできる人は比較的少ない。練習を進めることによって、スムーズな動作が学習されてくる。
また、上下肢を同時に動作させるために呼吸が苦しくなるが、運動後には、体の深い部分から呼気が上がってくる感じを共通的に持つことができる。これは、本格的な腹式呼吸(丹田呼吸)につながるもので、私はこの深い腹式呼吸を「アニマルブレス(animal breath)」と呼んでいる。
水泳能力の向上などに、アニマルウォークマシンは効果的である。
アニマルウォークマシン(愛称 アニマー)animal walk machine :animã

(4) 船漕ぎマシン

立位動作を保ち、両手でオールを握り、和船を漕ぐようにオールの「押し」「引き」動作をゆっくりと繰り返す。オールを押す時には、体幹部を前に押し出すように動作し、オールを手前に引く時には、体幹部を後傾させる。このことによって、腕だけで動作するのではなく、全身の前後動揺や、肩甲骨の背面での滑り動作を生じさせる。
その結果、肩凝りや疲労の軽減に効果的である。
舟漕ぎマシン (ストレッチ ロウイング)Stretch Rowing Machine

fNIRSの脳内変化では、運動中に脱酸素化ヘモグロビンの割合が高くなるなど、脳内組織での酸素の取り込みが活発化すると考えられる。
動力(モーター)をもちいて、オールの動きを自動化した装置が、「パワーアシスト付き船漕ぎマシン」である。座位姿勢をとり、自動的に動くオールにつかまった形で運動するリハビリ用に開発したマシンであるが、健常者が用いた場合でも、肩や上半身に気持ちの良いストレッチ効果あらわれ、喜ばれている。
リハビリマシンとしての認知動作型トレーニング