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ベッド移動式マシンの開発経緯とその利用法

この講演は、「認知動作型トレーニング」の「ベッド移動式体幹深部筋トレーニングマシン」に関連した内容について説明したものです。「ベッド移動式体幹深部筋トレーニングマシン」(以下 「ベッド移動式マシン」と略す)がない場合にも、体をどのように手入れし、調整するかという「体の使い方に関する考え方」を理解していただくことが大切だといえます。
                                 小林寛道


講演タイトル:体幹深部からの姿勢矯正にかかわるストレッチ運動

しばらく腰をかがめた姿勢で作業していると、立ち上がる時に腰が曲がったままで、簡単に伸ばすことができないという経験をもつ人は少なくないと思います。
昔は、農業で長時間、前かがみの姿勢をとっていたので、腰が曲がった前かがみの姿勢のままで固まったような高齢の人が多く見られましたが、近年では、こうした高齢者は少なくなりました。
しかし、日常生活で、車の運転やパソコン作業、スマホから目が離れない姿勢、などを長く続ける人では、高齢者に限らず、背中や腰が丸くなった姿勢や肩の左右差、背骨の曲がりが癖のようになっている人が多くなっているようにも思われます。
健康づくりの運動を行う上で、正しい姿勢を保つようにすることや、姿勢の矯正は大きな目標の一つに挙げられてよいといえます。

姿勢が悪いという事は、単なる習慣的な癖の場合もあるし、その癖が固まってしまった場合もあるでしょう。もちろん病的や障害(ケガ)で整形外科的な問題をもつ場合もありますが、ここではトレーニングや整体的な手法などによって矯正が可能となる範囲の話にとどめることにします。

姿勢のゆがみについて

姿勢のゆがみは、骨の並び方(アレンジメント)が不正であることの現れであるといえます。
 脊柱など、一つ一つの骨の並び方を支えているものは、筋肉、腱、靭帯、結合組織などです。背骨、骨盤、肩甲骨の配列や左右バランスがとれた姿勢は健康にも理想的です。

 体のゆがみや痛みへの対応として、骨格を支えている筋肉や結合組織の状態を改善することが有効であるという考え方は、80年ほど前から提唱されています。
近年では、筋肉や内臓などを包んでいる筋膜についても注目されています。筋膜は、収縮性のあるエラスチンと収縮性のないコラーゲンから成り立っており、全身にネットワークのように存在しています。
 筋膜自体がよじれて萎縮したり、分厚くなって硬くなったりすることが姿勢のゆがみや痛みなどを生じさせる原因となっているとも言われています。
筋膜に注目して身体全体の調和的な統一感を回復させるという健康回復法は、1940年代にアメリカの生化学者であったロルフ博士によって提唱されました。ロルフ法(ストラクチュラル・インテグレーション)は、その後、今日までさまざまな形で発展がみられ、近年では筋膜リリースといった手法もテレビなどで紹介されています。

ストレッチと筋力発揮

疲労した体や運動不足の体では、柔軟性が低下し、末梢の毛細血管での血流も少なくなっています。堅くなった体の部分の血行を良くすることによって、組織の柔軟性を取り戻すことができますが、これには、反射や神経、感覚器官の働きも関係します。
そこで、認知動作型トレーニングに関係する知識について触れることにします。

カール・ルイス選手への施術

1991年の世界陸上選手権東京大会で、100m9秒86の世界記録(当時)を樹立したカール・ルイス選手が、本番のレース直前にサブトラックのテントでトレーナーの施術を受けている様子をつぶさに観察していた時のことです。
ルイス選手は、マッサージベッドの上でトレーナーの施術を受けていました。トレーナーは、仰向けになったルイス選手の片脚の膝を曲げて、胸に近づけたり、膝を伸ばしてほぼ垂直に立て、さらにその脚を顔の方向に倒して脚の背面の筋肉を引き延ばすような施術を行っていました。
私は、こうした施術は、ハムストリングスのストレッチであろうと興味深く観察していたのですが、その後、このストレッチの方法は、ピーエヌエフ(PNF)ストレッチの一つの手法であることを知りました。

PNFとは、「固有受容性神経筋促通法」と呼ばれるもので、1940年代にアメリカの神経生理学者で医師のカバット博士が理論を構築し、リハビリを目的として1950年代に理学療法士のノット氏とボス氏らによって具体的な手法が開発されたといわれます。その理論は神経生理学的でやや複雑ですが、近年では「PNFストレッチ」という名称で、リハビリ部門に限らず、柔軟性を向上させるコンディショニング手法として普及が図られています。

1991年当時、日本陸上競技連盟の科学委員長として選手の強化に直接かかわりを持って活動を行っていた私にとって、世界一流の競技者がどのようなコンディショニングを行っているかについて強い興味を抱いていました。
カール・ルイス選手は、その当時、短距離界の第一人者であり、海外遠征には、トム・テレツコーチをはじめ、専属のトレーナーや栄養担当スタッフなど、7名のスタッフが同行する編成になっているといわれていました。
このルイス選手のトレーナーの手法を観察することから、さまざまなヒントが浮かびました。

ルイス選手のような名選手の場合には、超一流のトレーナーの施術を受けることができるが、一般のランナーや普通人にはそうした施術を受ける機会がありません。しかし、そうした施術のエッセンスを含んだコンディショニング用のトレーニングマシンが開発されれば、その施術の効果をより多くの人が味わうことができると考えました。
また、選手ばかりでなく、PNFはリハビリの手法として開発された手法であるので、これをマシンで一般化することができれば、日常のコンディショニングにも有効だといえます。
このような意図をもって、「ベッド移動式体幹深部筋トレーニングマシン」(略称「ベッド移動式マシン」)が開発されました。

身体調整法に見られる共通要素

これらのストレッチに関する方法に共通していることをまとめると次のようになります。
①筋や腱をできるだけリラックスさせてストレッチする。
②ストレッチする体の部位を明確にし、ストレッチの方向や体位、体の傾きなどを工夫する。 
③ストレッチされた筋に対して、自発的な筋力発揮の意識を持った筋収縮をおこなう。
 
具体的には、図1に、「腰痛予防体操」「PNFストレッチ」を代表するような姿勢を例示しました。

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 図1腰痛予防体操、PNFストレッチの図

「ベッド移動式マシン」を用いたトレーニング

「写真1は、「ベッド移動式マシン」の全体像です。
JPEGベッド移動式大腰筋マシン東大駒場JPEGベッド移動式マシン柏Ⅱ
写真1(A、B)ベッド移動式マシン

ベッド移動式マシンは、固定式台座に設置されたスライド式ベッド、およびアームに取り付けられた円筒形のパットから成り立っています。
 ベッド上でストレッチを行った後に積極的な筋力発揮、および姿勢保持のためのポージングを行うことができるように作られています。
膝の裏面にあてる円筒形のパットがアームに取り付けられており、このアームとパットは、脚を支える役割を持つとともに、施術者(トレーナー)の手の代わりとして、膝の裏側から脚を頭の方向に押す力を加えたり、脚を伸ばすときに抵抗を与える役割を担っています。
パットの動きとは別に、モーターの駆動力によってベッドが頭方向および足先方向に水平に移動する仕組みになっており、ベッドが移動する分、利用者にストレッチを生じさせる外力がパットの部分いかかるようになっています。ベッドは横方向に左右30度程度傾斜をつけることができる構造になっています。これによって、股関節への刺激を、仰向け姿勢に対する水平面からだけでなく、股関節の内旋や外旋などが生じるさまざまな角度から与えることができます。

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図2「ベッド移動式マシン」の利用時の姿勢

JPEGベッド移動式マシンと友田ポージング 
写真2 「ベッド移動式マシン」利用時の姿勢

「ベッド移動式マシン」での運動の実際では、体幹部へのストレッチを有効にするために、ベッドに寝た状態で膝を高く保つ。(図2③の1)
股関節を屈曲させるときは、屈曲を強めるために膝を胸に押し付ける方向に外力が加わり、ベッドが安静姿勢の足先方向にスライドする(図2③の2および写真2)
膝と股関節を伸展させるときは、腰をしっかり伸ばした状態にしたうえで、体幹が外力によって引き伸ばされるように、ベッドが頭側にスライドする。(図2③の3および写真2)。

「ベッド移動式マシン」の特徴は、ベッド面が右側または左側に傾いた状態で、股関節や体幹の屈曲・伸展を行うことができることです。
ベッドをサイド方向に傾斜させることは、体をひねる代わりに、いろいろな角度調節を用いて股関節や骨盤の屈曲・伸展の状態を知ることができる利点があります。(図2③の4,5,6)
両脚を同時に屈曲させて伸展させるよりも、傾いたベッドの上で片脚の屈曲および伸展を行うほうが、腰や背中への刺激はより効果的であるようです。その理由の一つとして、姿勢保持に大腰筋を有効に活用した姿勢保持(ポージング)が可能であるためと考えられます。
「ベッド移動式マシン」を利用した人では、その深いストレッチ感にやすらぎ感を持つ人が多いようです。股関節の動きを、様々にストレッチ角度を変えて行うことができるために、腰痛の予防や改善にも良い効果を持っているように思われます。
このマシンの開発の意図には、2人組で柔軟運動を行う場合の危険性の予防や、トレーナーの労力を軽減すること、およびトレーナーの技量差を少なくする目的も含まれています。

マシンを利用しない場合の「脚・股関節と体幹深部筋のストレッチ」
 マシンを利用しない場合には、紐を用いたストレッチが有効です。
股関節と膝の裏側が十分伸ばされ、首(脊柱)を用いて、ストレッチの強さを調節しながら行います。
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詳しくは、別稿で紹介します。


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写真3 「十坪ジムグランデ伊東 山喜旅館」の「ベッド移動式マシン」
「ベッド移動式マシン」は、東大駒場QOMジム、「十坪ジムグランデ伊東 山喜旅館」、静岡県総合健康センター(三島市)、スポウエル健身塾(静岡県清水町柿田川)、アイシック健身塾(沼津市)、伊東マリンタウン温泉(伊東市)などに設備されています。