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「十坪ジムネットワーク」の初期構想 平成18年段階

十坪ジムネットワーク構想

 平成18年4月26日 生涯スポーツ健康科学研究センターの開所記念シンポジウムで、「十坪ジムネットワーク構想」を発表した。
この構想は、経済産業省による平成18年度サービス産業創出支援事業(健康サービス)「3世代ユニバーサル10坪ジム」ネットワーク事業基盤整備事業(柏・東葛ユニバーサル健康サービス産業創造コンソーシアム)として採用され、その実際的な事業が展開されることになった。ここでは、「十坪ジム」の考え方の基本について、中高齢者を対象にした「十坪ジム指導者養成講座」での講義内容を示すことにしたい。
高齢化社会に向けて、国としてもいろいろな方策を考えていますが、やはり「運動によって健康を保つ」視点が非常に重要です。いまの社会には元気な高齢者がたくさんいます。私は今63歳で高齢者には入りませんが、まだまだ20年くらいは活動できると思います。しかし同年代の中には、非常に身体的に具合が悪くなったり、さまざまな原因でからだの調子が悪くなった人も多く存在します。そこで我々自身が元気で、いろいろな形で社会貢献して良い社会を作っていく、ということを基本的なコンセプトとして、その方法論を勉強していただきます。
これまで私は大学で35年くらい研究をしてきました。その成果を世の中に出し、実際に今後社会に生かそうと考えています。そのための基礎研究は十分にしてあります。これからは普及の段階です。ただ同時に新しいテーマもどんどん出てきていますので、この研究をすすめながら実際に課題を解決していきたいと思います。

 「十坪ジム」とは「生活に溶け込んだ小規模トレーニング・健康づくり施設」をいいます。一般的に、トレーニングジムといえば大規模な施設の中に非常にたくさんのマシンを置き、かつ指導者が少ないものが通常です。その理由は、できるだけ人件費を抑えるということにあります。したがって経営的には、少ないトレーナーで多くのマシンを揃えるというのが一般的には基本的なコンセプトとなります。
 「十坪ジム」はその逆です。一人で黙々とトレーニングするのではなく、33㎡という狭いスペースの中でヒューマン・リレーション、人間対人間の接触を非常に重要視し、訪れた人とのコミュニケーションをとりながら運動しようというコンセプトです。ですから、いつでも・誰でも・自分のペースで楽しく快適にからだを動かせる身近な健康づくりの拠点として「十坪ジム」があると考えます。
実は「十坪ジム」には、からだづくりと同時にコミュニティづくりもコンセプトの中に含めています。いま、高齢者と若者が会話をする機会が減っていますが、「十坪ジム」で使う認知動作型トレーニングマシンは小学生からオリンピック選手、90歳の高齢者でもできる機械です。それから知的障害をもった人や認知症の人も含め、誰でもできるマシンを実現しています。その意味で「十坪ジム」は、基本的に「三世代ユニバーサル十坪ジム」です。三世代というのは、我々を中心に考えれば、「我々」と「子どもたち」と「孫」ということです。そして失われた、あるいは失われつつある家族の団らんやおじいちゃん、おばあちゃんと子どもとの会話、近所の子どもたちとの交流などをすすめていきます。
単に運動によって健康になるだけでなく、いろいろな人との接触が必要になるということです。そうしたときに高齢者の持つ人生経験が非常に役立ちます。一部には、年寄りは若い人たちが納めた税金を食いつぶすために存在するかのような物言いがありますが、それは明らかに間違っています。ある程度年齢を重ねた人間が、培ってきた社会経験を生かしながらコミュニティづくりの役割を担っていく。人間に基本的な運動の動作をトレーニングするマシンを使ってトレーニングするので、我々でもオリンピック選手の指導が可能です。なぜかというと、オリンピック選手でもそんなに完璧にバランスがとれる人は少ないのです。たとえばスプリントトレーニングマシンは右と左を平等に回さなければいけないのですが、右の腰は上手く回るけれども左の腰は回らないというケースも出てきます。そこで「ちょっと腰を持ち上げるようにして・・・」と指導することができます。マシンというツールを使うことによって、自分のからだがそんなに自由に動かない高齢者でも指導の名人になることができます。それだけ「十坪ジム」ではマシンを重要視しています。

 十坪という小規模な施設ユニットを開発し、地域内でネットワーク化することを目指しています。「ネットワーク化」とは、ジムをひとつだけでなく幾つも作ろうということです。そのヒントは温泉です。たとえば野沢温泉に行くと街なかにいろいろな温泉がありますが、それぞれ味わいが少しずつ異なるので、「今日はここ、明日はあそこ」とハシゴをします。「十坪ジム」でも、ジムごとに少しニュアンスの違ったマシンを置き、自由に行き来ができるようにしたいと考えています。目標としては、柏市内の20地区に少なくとも1カ所は「十坪ジム」を作っていき、将来的には40カ所、あるいはそれ以上に増えるかもしれませんが、とりあえず20カ所が目標です。今回の経済産業省の事業では、基本的に3カ所という形になっています。しかしそのうちの1カ所は、隣り合わせで十坪が2つあるツインタイプですので4カ所とも言えます。その他に、つくばエクスプレスの秋葉原駅で10日間のイベントを行いますので、これを含めると5つになります。かなりの額の資本金を要するので課題はありますが、とにかくネットワーク化をはかり、いろいろなところへ自由に行けるようなシステムを作りたいと考えています。
 地域性や利用目的に合わせた機能タイプを開発することも「十坪ジム」の特徴です。たとえば非常に高齢者の割合が多く、子どもがまったくいない地区に子ども向けの機種をたくさん置いてもあまり意味はありません。このように地区の特性に合わせて機能タイプを作っていく必要があります。そのデザインは、将来的には地域の皆さんの要望を入れながら作って行きたいと思っています。
 また「十坪ジム」は従来の「筋トレ」型トレーニングとはコンセプトの異なる革新的トレーニング手法を導入しています。一時、高齢者の健康・体力づくりに有酸素運動と筋力トレーニングが有効であると言われ、外国から高齢者向けの筋トレマシンが輸入されるなど、盛んに宣伝された時期がありました。ところがそれを使ったところ約3割の人が逆に具合が悪くなった、ということが国会でも取り上げられました。高齢者に筋トレをさせることが果たして良いのかどうかという問題です。ダンベル体操などが流行った時期もありますが、最近では自分の体重(自重)を利用した筋トレ、体操が勧められるようになっています。やはり筋肉をトレーニングする必要はあります。問題なのはトレーニングの仕方です。これには新しい方法を考えなければなりません。そこで、今までの方法の欠点を除いて、本当にからだに良い筋トレマシンを開発しました。
 そのマシンは子どもから高齢者まで、低体力者からトップスポーツ選手まで幅広い層の利用ニーズに対応しています。今あるマシンは、小学校の4年生から5年生になれば使えるようになります。実際に、マラソンランナーの谷川真理さんが主幹している神田神保町の「ハイテクスポーツ塾」にはスプリントトレーニングマシンが置いてありますが、5年生くらいからマシンを使ったトレーニングを取り入れています。

 「コミュニティの核としての機能―銭湯・床屋型コミュニケーションの復活」は、「十坪ジム」が狙う一つの目標です。
 静岡県三島駅の北口にあるショールームの例で説明します。幅が7.2mで縦が4.6m、面積が33.12㎡で約10坪です。ここにスプリントトレーニングマシンとスプリントパワーバイク、アニマルウォークマシン、高速トレッドミル、ベッド移動式大腰筋トレーニングマシン、が置いてあります。ここで同時に何人が運動できるかというと、5人から6人が限度です。
 静岡県は東西に長い県で、西部は名古屋圏で非常に景気がよくて人々も活気にみちて、健康度も高い。しかし東部は伊豆半島から富士山麓、三島、沼津のあたりにかけては経済が停滞して病気の人が多く、寿命も短いという「西高東低」の特徴を持っています。そういう東部のほうを強化しようということで三島の駅前に「十坪ジム」を作りました。
この十坪ジムは、もともと三島駅北口に近接した㈱シードという会社のビルの車庫を改造してもらったことに始まります。西島昭男という方が社長で、社長のベンツが3台置ける広さになっています。私がどうしてもショウルームが欲しいとお願いした、車庫がジムに変身したわけです。ですから当初は「西島ガレージジム」を呼称していました。しかし、広さがちょうど10坪あったので、十坪ジムを発想する源になりました。
 三島のジムにはシャワールームがありますが、皆さんほとんどシャワーを浴びず、着替えに使うくらいです。今回設置する「十坪ジム」にはトイレはありますがシャワーはついていません。自分の家で着替えてジムへ来て、トレーニングが終わったら着替えずに帰るというイメージです。
 10坪ジムの機能タイプにはまず、「高齢者サロン(寝たきり・介護予防)タイプ」があります。高齢者といっても、60代はまだまだ大丈夫です。100歳以上になると厳しいかもしれませんが、三浦雄一郎さんの父・三浦敬三さんのような例もあるので90歳でトレーニングしても良いと思います。100歳以上の人が今全国に25,000人いますから、100歳以上の人が来てもおかしくありません。
 寝たきり予防については、今研究を進めているところです。今の医療現場では、効率性を重んじるばかり、歩ける人でも車イスに乗せてしまう。車イスに乗る、あるいは骨折などでベッドに寝ていると、体力が弱い人は1週間で起きあがれなくなり、そのまま寝たきりになってしまいます。本当はまだじゅうぶん余力があるのに寝たきりになる人が多いのです。初期の段階であれば、少し軽い運動をさせる、あるいはベッドの上ででも軽い運動をさせて筋肉を復活させれば歩いて病院から帰ってこられるのです。
 また、現在各自治体は高齢者の医療費の負担で非常に苦しんでいます。多いところでは高齢者の医療関係でその市町村予算の7割がとられている。たとえば、1人が寝たきりで要介護1になると月々7万円、年間で84万円の負担になります。それをその人が亡くなるまで負担していかなければいけない。寝たきりの高齢者を抱えた家族も非常に困ります。介護の費用として1年間に約500〜600万程度かかるので、かりに退職金があったとしても自分が寝たきりになったら全部使い果たしになってしまいます。そういう状況がどんどん進行しています。
 ただ歩いていれば良いだけの話なのに、寝たきりになると家族の財産も何も無くなってしまって、なおかつ、国や自治体の経済も逼迫する。この大きな問題を解消するには、モデルを作って結果で見せるしかありません。今回の事業はその意味で非常に注目を浴びており、重要なものといえます。

 第2に「スポーツトレーニングタイプ」。これは今までも行っており、駅伝に向けた強化など、いろいろな用途に使えます。
 それから「肩こり、腰痛、不定愁訴軽減タイプ」です。腰痛や肩こりの人はけっこう多いですが、私は四十肩五十腰など全く患っていません。それは、上手なからだの使い方を自分で研究しているからです。気功やヨガ、東洋の武術、呼吸法など、大方のことは研究しており、結論として究極にたどりついた方法をマシン化してあります。
 その他、歩行(ウォーキング)動作改善タイプ。日々の歩き方はとても大事です。歩き方を工夫することによって非常に健康度が増します。背筋を伸ばし、胸から下が足だというふうに考えて腰全体を使った歩き方をトレーニングしていきます。
 それから「ゴルフトレーニングタイプ」。ゴルフはからだをひねる運動が入りますが、年をとった人はからだをひねる能力が非常に低くなっています。上半身をひねって後ろを向けない人、片方は回るのに反対側が全然回らない人もいます。スコアが上がる上がらないという前に、ゴルフに必要な、きちんとバランスのとれたひねりができる柔軟性や筋肉を鍛えることがまず必要です。本当に必要な、からだの芯の部分をきちんとトレーニングすることによって、良い結果が出るのです。
 「女性シェイプアップサポートタイプ」についてですが、女性にはどうしてもシェイプアップしたいという潜在的欲望があります。また、実は女性の場合、尿失禁で悩む人が驚くほど多く、早い人では40代から始まります。その改善には、下半身を鍛える、あるいは股関節のトレーニングで筋肉をしめると良いといわれています。しかし無理をせずに上手く解消する方法があります。特に球底型ストレッチマシンはそのために作りました。表側の筋肉ではなく、からだの内側の深いところの筋肉を鍛え、体幹底部の股関節を含めた筋・腱群をストレッチすることが非常に大事です。
 「生活習慣病予防タイプ」については、現在、厚生労働省が内蔵脂肪型の肥満を改善することによって生活習慣病をなくしていこうということを盛んにアピールしています。これまでは「カロリー」という単位で運動を測っていましたが、今は「メッツ」という単位が用いられています。「1週間に23メッツの運動」が推奨されています。
 「家族対話トレーニングタイプ」もあります。最後に「ユニバーサル(障害者との共生)タイプ」です。現在毎週1回、知的障害児のトレーニングをこの「生涯スポーツ健康科学研究センター」で行っています。知的障害のなかでもかなり重度で、最初は挨拶もなにもできず、ちょっと興奮すると嬌声を発したりする、ひどい状態でした。

 実は、私自身がこのマシンを使っているうちに、このマシンは足が速くなると同時に脳の状態を活性化する効果もある、と感じていました。疲れた時でも、舟こぎマシンにつかまってトレーニングしていると、だんだんからだの疲れが取れて回復してくるのです。そこで大きな結論を得ました。わかりやすくいうと運動には2種類、「良い運動」と「悪い運動」があるということです。「悪い運動」というのは、ただ疲れる運動、消耗する運動です。これまでの理論では、トレーニングとはエネルギーを使ってからだを絞っていためつけ、そして超回復を期待するものでした。もちろん疲れるのは良いのですが、ヘトヘトの状態になった時に気分転換に走ってもなお消耗するだけです。そんな時に舟こぎマシンを使うと、からだの中の悪いものが抜けていくのです。つまり、「良い運動」とは運動した後に自分の中にエネルギーが溜まってくるような運動です。
これは究極的には「内気」というからだの内側の気です。内気を活性化させることが、健康を持続していく源だということに気がつきました。ここにあるトレーニングマシンは、内気を上手く運行させる方法を研究するなかから生まれてきたものです。世の中には、「悪い運動」が流行っています。それは、いまのトレーニング理論がアメリカからの影響を強く受けているからです。アメリカで非常に多い心臓疾患の原因は肥満にあり、肥満は食べ過ぎからきています。したがって食べ過ぎた分を運動によって消費する、という論理に立っているので、何カロリーの運動をしたかが重要な意味を持ちます。そういう理論の系列もありますが、別の理論の系列もあるのです。
寝たきりになりそうな人が50カロリーの運動をしたら丈夫になるどころか、さらに消耗してしまうかもしれないのです。ですから、体の弱い人やエネルギーを消耗してしまっている人には別の考え方が必要になってくるのです。
このマシンは単に心臓や血圧、筋肉だけでなく、脳の活動にかなり影響を与えることがわかっています。脳の状態を良くするような刺激を与えたら気分が良くなる、ということです。脳と運動との関係をどうしても切り離して考えるわけにはいかないのです。

 障害者の話に戻すと、平成17年9月からトレーニングを始めましたが、皆非常に喜んで取り組んでおり、ずっと続けて通ってきます。最初はIQが20以下で測定できない子もいましたが、今ではIQ27、約2歳半程度の知能がつきました。これは明らかに脳に良い影響を与えているということであり、実際静岡のほうでは認知症の患者にも使用して非常に良い結果が出ています。
 はじめは私も半信半疑でしたが、今は自信をもって知的障害者にも勧められます。平成18年12月からは、千葉県立柏養護学校内に十坪ジムタイプのトレーニングジムを設けて、40人の生徒をトレーニングしていますが、生徒から非常に喜ばれています。

 次に「十坪ジム」をどういうところに設置したら良いかという設置場所の問題です。ひとつは中心市街地の空き店舗。これは東武野田線の増尾駅から徒歩1分くらいの商店街にあります。昔のお屋敷まちですが、住民の高齢化が進行して商店街も少しさびれ傾向にあります。ここで成功すると、全国の商店街の空き店舗でできるというひとつのモデルになります。
 それから鉄道駅・高架下スペースの活用。駅の場合は床面積あたりの利益が何%なければならない、といった規定があるので難しいところです。
 大型マンション共用スペースの活用も考えられます。これは三井不動産が関心を持ってくれており、柏のほうに三井不動産がつくるマンションの中には十坪ジムがいくつか入る予定です。
 ショッピングセンター内には今までにもいくつか例があり、将来的にも入れたいと考えています。
 もうひとつは複合店舗、コンビニ、ドラッグストア、学習塾などと併せるものです。三島ではお母さん方が子どもを学習塾に連れて行き、それが終わったら十坪ジムに連れてきて待っていました。もし2階を学習塾、1階をジムにすれば一回の送り迎えですむわけです。このように人が集まるところに入れれば面白いと思います。
 あとは医療・福祉施設の併設にも可能性はあります。
 公共施設内、というのは体育館とか公民館の中につくる、ということです。
 それからスポーツクラブ内のコーナー展開です。このジムで使うマシンは他のものより10倍くらい高価ですし、特別な指導法が必要ですので、いま既設のスポーツジムにマシンを置いても上手くいかないことは目に見えています。そこで他のマシンとは区切ってしまい、特別なコーナーとして設置すれば可能性はあると思います。実際に興味を示しているスポーツクラブもあります。

 それから企業オフィス内に福利厚生施設として作ることも考えられます。
 巡回移動サービスについてですが、このジムで使うマシンは非常に高価で、なかなか多くの場所に設置できません。ずっと据え置きにするとその周辺の人しか使用できません。そこでマシンをトラックに積んでサーカスと同じように巡回するというプロジェクトです。この事業には平成18年度に千葉県から2,400万円の事業に対する補助が出ています。ただし半額補助ですので1,200万円は我々が負担しなければなりません。実際には流山市や周辺地域で行おうと予定しています。
 「十坪ジム」のメリットとしては、大きなスペースが不要、居住地に近接したトレーニング環境、それから通勤・通学途中や買い物帰り、背広を着たままでのトレーニングが可能、親子・3世代が同時にトレーニング、さまざまな機能タイプのジムをネットワーク化してどこでも多様なマシンでトレーニング可能、ということがあげられます。