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ボディリペアを用いたトレーニングの方法

ボディリペア・トレーニングマシンを用いた運動の意義と方法
             小林寛道(東京大学名誉教授)

1.はじめに
 健康の維持・増進を図るために、日常生活の中で体を動かし、運動することが必要とされている。厚生労働省は、「運動指針2006」(2013年改定:健康づくりのための身体活動基準2013)をはじめとして、生活習慣病の予防や改善には、1週間に23エクササイズ(23メツ・時/週)(運動量の目安)以上の運動実施を進めている。
安静時の代謝量にみあう運動強度を1メッツ(Mets)として表す。1エクササイズ(メッツ・時)は、普通の速度で歩く運動(運動強度3メッツ)×20分、速歩(強度4メッツ)×15分、軽いジョギング(強度6メッツ)×10分、ランニング(強度8メッツ)×7~8分の運動量に相当する。平均して、平日の一日に必要とされる運動量を3~4エクササイズ(メッツ・時)とすれば、普通速度での歩行が1時間~1時間20分の運動となり、一日1万歩の運動にほぼ相当する。
 実際の統計によれば、平均一日歩数は、成人男性7066歩、成人女性6249歩(2014年)。(2005年 男性7561歩、女性6526歩)。
 
 一般に運動が不足がちの人では、肥満をはじめとして生活習慣病にかかりやすい傾向が強い。運動を行うことは、単に生活習慣病の予防ばかりでなく、精神面、生活行動面、においても良い効果が期待できる。また、高齢者では、肥満よりもむしろ痩せたり、体力の衰弱したフレイル状態が問題となる。

2.運動を楽しいと感じる心の働き
 「体を動かして運動することは楽しい」と感じることが一般的である。
動物の場合でも、成長期には盛んに身体を動かして遊ぶことが大好きである。体を動かして遊ぶことは、動物の本能に根ざした要素であると言える。
しかし、強制された運動や、必要以上に努力感が要求される運動は長続きしない。楽しく運動できるということが大前提となる。

 運動にかかわる脳の領域は、広い範囲にまたがっている。
多重知性理論(ハワード・ガードナー)によれば、人の知性(知能)は、次の8つの要素に分けられる。①言語的知性(言葉)、②絵画的知性(絵)、③空間的知性、④論理・数学的知性(数)、⑤音楽的知性、⑥身体運動的知性、⑦感情的知性、⑧社会的知性。
運動やスポーツをすることには、これらのすべての要素が含まれている。
自発的な意図的な身体活動(運動)をすることによって、身体運動的知性ばかりでなく、感情的知性や社会的知性が刺激される可能性が大きい。

3.ボディ・リペアに含まれる運動要素

 健康増進を目的とした運動として、一般に有酸素運動や筋力トレーニングが推奨されている。しかし、健康増進のためには、さほど激しさを伴わないヨガやピラテスといった骨盤や体幹の運動の動きをともなう、静かに体調を整える運動も多くの人に受け入れられている。
 ボディ・リペアは、本来、高齢者や体力のあまり高くない人を対象に考案されたトレーニングマシンである。近年では、台湾製のものが作成され、ヨーロッパを中心に海外でも大きな販路が拡大しており、特にドイツでの人気が高い。

ボディ・リペアは、筋力トレーニングの要素を取り入れているが、本質的には、ヨガやピラテスに含まれるような考え方も取り入れられたオリジナルなトレーニングマシンである。

① 体の関節の可動範囲をゆっくり引き伸ばす(ストレッチ)することにより、硬くなりがちな肩、腰など、身体の柔軟性を取り戻す。
 (ショルダーリンク、バウワーリンクなど)

②体幹深部にある筋群(インナーマッスル:大腰筋など)に活動刺激を与えると共に、普段意識されることが少ない骨盤内部の筋群(泌尿器系にかかわる筋群など)に、意識的な緊張や活動の刺激を与え、体にメリハリを生み出す。
 (ソアスリンク、コキシアリンク、レッグリンクなど)

③普段の生活では、斜体側交差型の神経支配で運動が行われているが、普段あまり使われていない同側型神経支配の動作を用いてトレーニングすることによって、脳神経系の新鮮な刺激を与えると共に、体幹深部に存在するインナーマッスルを強化する。
 (チェストリンク)

2.ボディ・リペアに含まれるトレーニングの方法と注意点

①ショルダーリンク

  左右のハンドルを握り、右のハンドルを上に移動させると、左のハンドルが連動して下に下がる。胸郭を介して両腕が斜め方向に引き伸ばされる。
下のハンドルに力がかかると、上のハンドルがより上方に持ち上げられ、肩関節が受動的にストレッチされる。
肩関節に関連する筋群をゆっくりストレッチする時に、胸を張るよう動作すると、肩の背面にある肩甲骨(背中上部にある三角形の骨)が中央部に寄せられる動きが生じ、肩甲骨のスムーズな動きによって、肩こりや背中の張りなどが軽減される。
シートは回転式になっており、腰のひねりを加えるように両膝を左右どちらかに傾けるように倒すと、背筋へのストレッチ効果も得られる。膝を傾ける方向は、腕を上げた側でも、腕を下げた側でも良い。背筋への刺激の方向が変わる。
いわゆる筋トレマシンではないので、ゆっくり動作することでよい。
負荷は、10段階あるが、3~5段階、回数は30回以下でよい。
ショルダーリンク

②バウワーリンク

フィギュアスケートの荒川静香選手が用いた「イナバウワー」の技を想定して、バウワーリンクと名付けられた。
背中を背もたれにあてて、後ろにそっくりかえるような動作で膝を伸ばす。
勢いよく立ちあがらないで、ゆっくりと動作し、腰や背中が伸びた状態でしばらく背面をストレッチするように動作するとよい。
背もたれの位置を少し倒してから背中に当てると、背中のより高い部分がストレッチされる。
負荷は10段階の3~5段階、回数は30回。
ゆっくりであれば、少ない回数でも良い。
膝伸展屈曲セノー2膝腰伸展セノー2

③ソアスリンク

ソアスとは、大腰筋(Psoas M. Muscle)の意味である。座位姿勢で、膝を高く引き上げる動作を行うことから、大腿四頭筋(太ももの前面の筋群)のトレーニングであると考えられがちであるが、「お尻歩き」の要領で、膝を引き上げるときに同じ側にお尻も持ち上げるように動作すると大腰筋をトレーニングすることができる。大腰筋は、太くて長い筋肉で、骨盤内の通過し、腰椎と大腿骨を結んでいる。骨盤の骨(腸骨)の内側の広い部分から起こって大腰筋を合体し、大腿骨につながっている腸骨筋も骨盤内の筋肉として注目されている。大腰筋と腸骨筋は、総称して腸腰筋と呼ばれ、インナーマッスルの代表的な存在である。インナーマッスルは、姿勢の保持、歩行やランニングに重要な働きを持っていることが近年注目されている。
165もも上げセノー


④コキシアリンク

内股を開閉する運動である。内股の筋肉として内転筋がある。
内股を開いてから閉じる動作をするときに、動作の後半で、下腹部を緊張させ、下腹部を体の内側奥に持ち上げるように意識的に動作するとよい。
骨盤底筋など、泌尿器系や排泄に係る下腹部の筋群への刺激となり、尿漏れやなどを予防する筋の機能を向上させる。
左右に開いた両脚を閉じる動作(内股を閉める動作)をするときは、ゆっくりと静かに行い、勢いよくパワー発揮の筋トレ動作のようには行わない。
勢いよくやりたい場合には、左右の脚がある程度離れた状態で行い、マシンの左右がぶつからない範囲で行う。
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⑤レッグリンク

膝を伸ばした状態から下腿部分をシート側に巻き込む動作(レッグカール)動作を行い。脚の巻き込み動作は、脚の背面部の筋群(ハムストリングス)を強化する働きを持つ。
レッグリング




⑥チェストリンク

手と足を同側側に動作することから、同側動作型マシンである。
踏み込んだ足側と同じ側の手(ハンドル)が、前方に移動するため、回転式のシートを用いて体幹部のひねり動作を生み出すことができる。
体幹のひねり動作は、体幹深部筋をストレッチする効果を持つと同時に、身体全体の柔軟性を向上させることができる。
比較的大きな動作でゆっくり行うと良い。小さな動作ですばやく行っても、動作の面白さはあるが、体幹部への刺激は少ない。
同側手足セノー2IMG_3818


ボディリペアを用いた運動の要点

動きをゆっくりコントロールする、力を出したり抜いたりする、自分の意図が体を通して通じるようにする。具体的な内容は、次の通り。
、①腕や肩を大きく動かしてストレッチする、②体全体をひねったり伸ばしたりする、③股を開いたり閉じたりする、④背や腰を伸ばしてそっくりかえる、⑤足を伸ばしたりまきこんだりする、⑥太ももを大きく持ち上げたりおろしたりする。これらの動きをすることによって、表示の数値メモリがカウントダウンされる。